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「少年事件」7月10日発売

「少年事件」7月10日発売

書籍「少年事件」が7月10日から好評発売中。


アキハバラはなぜ起きたか。 深刻化する少年・少女事件、非行の実態と背景を精神医学、心理学、法律、警察、ジャーナリズムの専門家が分析し、 おとなは何ができるかを提言。
もう、他人ごとではない。親、教師、児童ソーシャルワーカー、カウンセラー、警察、行政 その他関係者必読書。

本書の内容紹介として、本書『まえがき』を掲載させていただきます。


平成18年12月2〜3日、明治安田こころの健康財団は、児童思春期講座「少年事件の予防と対応―現代の青少年をどのように理解するか―」を開催した。 その講座のパンフレットに筆者は、『この1年の間にも、「山口県高校爆破事件」(2005年6月)、「母親毒殺未遂事件」(2005年10月)、 「秋田小1男児殺害事件」(2006年5月)などが次々と起きた。 子どもが加害者であることもあり、被害者であることもある。誰しもがすべての子どもの幸せを希求しているにもかかわらず、 現代社会には子ども達を犯罪に巻き込む環境的要因が氾濫している。 わが国の将来を担うべき子ども達の健全な育成をいかに実効性をもって行うことができるのかが厳しく問い直されている』と書いた。

当日は、サイコロジスト、ケースワーカー、学校教職員、医師などの他に、都道府県警察本部の関係者の方々に、 定員をはるかに超えて全国から多数集まって頂いた。「少年事件」を巡るさまざまな議論が展開され、質疑応答も活発であった。 全国の関係者が、少年事件への対応に苦慮していることが実感された。講師の間から、この講座の講演記録を是非出版したいという提案がなされ、 大幅な加筆・訂正をして頂いて完成したのが本書である。


本書は、第1章「現代に生きる子ども達」(目白大学教授、臨床児童精神医学研究所所長:山崎晃資)、

第2章「少年事件の事態と背景」(元警視庁少年育成課副参事、文教大学人間科学部専任講師:石橋昭良)、

第3章「現代の青少年は何を訴えようとしているのか」(ノンフィクション・ライター:朝倉喬司)、

第4章「少年事件の裏側にあるもの」(神谷信行法律事務所・弁護士:神谷信行)、

第5章「少年事件をどう理解し、対応することができるのか」(前警察庁生活安全局長・元東京都副知事・元廣島県警察本部長:竹花 豊)、

第6章「少年事件から垣間見える思春期のこころ」(医療法人翠星会松田病院理事長、少年司法と思春期精神医療の対話・懇話会会長:松田文雄)

の6章から構成されている。各講師の実体験に基づく生々しい語り口であり、まさに現代に生きる子ども達をどう理解し、 彼/彼女らの問題にどう対応すべきかを「世に問う」書となった。


本書の第1章『現代に生きる子ども達』で、筆者はその後に起きたいくつかの事件、すなわち「奈良家族3人放火殺人事件」(2006年6月)、 「会津若松頭部切断母親殺害事件」(2007年5月)、「岡山駅突き落とし殺害事件」(2008年3月)などについて触れた。 そして、その章の「おわりに」で、大森貝塚を発掘したE.S.モースの『日本その日その日』の一節を次のように引用した(本書の42〜43ページ)。 『・・・外国人の筆者が一人残らず一致することがある。それは、日本が子どもたちの天国だということである。 この国の子どもたちは親切に取り扱われるばかりではなく、他のいずれの国の子どもたちよりも多くの自由を持ち、 その自由を乱用することはより少なく、気持ちのよい経験の、より多くの変化を持っている。 ・・・世界中で両親を敬愛し、老年者を尊敬すること、 日本の子どもに如くものはない。汝の父と母とを敬愛せよ。これは日本人に深くしみ込んだ特性である。 ・・・日本人のきれい好きなことは、常に外国人が口にしている。日本人は、家に入るのに、足袋以外は履いていない。 木製の履物なり、わらの草履なりを、文字通り踏み外してから入る。最下級の子どもたちは家の前で遊ぶが、 それにしても地面でじかに遊ぶことはせず、大人がむしろを敷いてやる。・・・』(一部省略)

このような素晴らしい日本はいったいどこへ行ってしまったのであろうか。 いまの日本は、E.S.モースが描いた当時の日本とは全く異なる方向へと動き出してしまったようである。 今こそ、「なぜこのような日本になってしまったのか」を深く考えるべき時である。


本年6月8日午後0時半頃、東京・JR秋葉原駅近くの路上で、25歳の男性によって17人が無差別に殺傷されるという驚愕すべき事件が起きてしまった。 インターネトの携帯電話サイトには、容疑者によると思われる約3,000回もの書き込みがなされており、当日の早朝から、 「神奈川県に入って休憩」、「ひどい渋滞」など、事件現場へ向かう様子が実況中継のように続いていた。 レンタルした2トン・トラックを歩行者天国に突入させ、さらにダガーナイフで立て続けに通行人を刺していった。 新聞や週刊誌は、この事件を大きく取り上げ、家庭状況、親子関係、高校や短大時代の交友関係、 さらに派遣契約社員としての生活ぶりなどに関する取材記事が連日のように報道されている。 また、評論家や精神科医などもさまざまな論評を行っている。 裁判の過程で、容疑者の犯行の動機や心理的背景が明らかにされて行くであろうし、

本書の随所で強調されている現代社会の病理との関連が解明されていくであろう。


このような事件に関する報道のあり方も気になる。 本年3月25日の夜、岡山県職員がJR岡山駅の在来線ホームから18歳の少年によって突き落とされ、 亡くなられるという不幸な事件が起きた。4月24日の新聞各紙は、「付添人の弁護士により、少年が岡山地検の簡易精神鑑定で、

広汎性発達障害の一種であるアスペルガー症候群と診断されていたことが明らかにされた」という記事を掲載した。

日本自閉症協会は、診断名のみが「ひとり歩き」してさまざまな誤解を生じさせ、 広汎性発達障害(自閉症、アスペルガー症候群など)を持つ人々への二次的な悪影響を作り出す可能性のあることを危惧し、 報道機関各社へ要望書を送った。 最近の事件に関連して気になることは、乳幼児期における親子関係のあり方、生活歴における冷遇経験、 親・教師・社会への復讐心、衝動コントロールの未成熟、親自身の欲求不満耐性の低さと自己中心性、 規範意識の乏しさ、さらに歯止めが効かなくなった携帯電話の普及と誤った使用の仕方などの問題である。 2年前の児童思春期講座で取り上げられていたこれらの問題が現実のものとなり、 ますます先鋭化し、「普通」の青少年に共通する問題として顕在化してきていることに戦慄するばかりである。


ここで思い出されるのは、故ケネデイ米国大統領が1963年の「平和の戦略」という演説の中で強調した 『必要なのは、お互いの違いに寛容であることである』という一節である。 さらに2002年には、「第12回世界精神医学会横浜大会」でアッピール「手をつなごう心の世紀」が採択され、 『私たちは、一人ひとりの違いを認めます。そして、一人ひとりを大切にします』と宣言された。 自分たちとは異質な存在を否定・排除しようとする傾向が学校や地域社会の中で蔓延しつつある今こそ、さまざまな問題に悩む若者たちの「こころの世界」を理解し、「個の理解」を深めることは極めて重要なことである。


青少年にかかわる仕事をしている方々、子育てをしている保護者の方々に、 一人でも多く本書を読んで頂きたいと切望する次第である。                                

(山崎晃資)