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書籍「少年事件」が金剛出版「精神療法」の書評に

書籍「少年事件」が金剛出版「精神療法」の書評に

書籍「少年事件」が金剛出版 雑誌「精神療法」書評に取り上げていただきました。

以下に転載いたします。

金剛出版「精神療法第35巻第3号 2009年6月」の書評より 村松 励先生

本書のタイトルは、少年犯罪でも少年非行でもなく、少年事件である。その理由は本書を読み進めるうちに納得した。それは、少年の犯罪や非行を社会現象や個人の病理として高みから論じたものではないことである。事件は、解決を求められる。再発の防止が求められる。それがサブタイトルに繋がる。解決のため、予防のために「おとなは何ができるか」といった自問自答を読者にも迫るものである。

本書は、6名の講演記録を元に、大幅な加筆・訂正がなされて完成したと「まえがき」に述べられているが、6名の著者たちの専門分野がそれぞれ異なっていることが本書を魅力あるものにしている。それぞれが言いっ放しではなく どこかでお互いが深く結び付いているといった安心感を抱かせる。それは、6人のおとなが少年事件の解決・予防のために何ができるかをそれぞれの立場から真摯に論じているからであり、著者の一人である松田文雄の言う「熱い少年のこころ」をどこかで持っているからではなかろうか。

評者にとっては、各章に思わず深く頷くこぼれ話や臨床上のヒントが沢山あり、それぞれに印をしながら読み進んだ。そのうちの幾つかを章を追って紹介したい。第1章では、編著者が少年Aの鑑定について検討会で、鑑定医に対して「汎用性発達障害を疑ったことはなかったでしょうか」といった質問に「鑑定の際には特に調べていなかった」といったくだりである。また、「性的興奮時のイメージ」に関する議論も興味深い。第2章では、石橋昭良氏のきめの細かいデータの解説が、議論を抽象化させない役割をとっている点で重要である。第3章では、朝倉喬司氏がA少年の育った「風景」に「何かが欠けている」と感じ、その欠けているものが「川」であることを閃くといったくだりである。「風景構成法」を連想させて興味深い。第4章では、神谷信行氏は現代の「悲しむ力」の衰退を指摘し、加害者の人間存在そのものにはらんでいる「悲」(呻き)が了解され、憎悪や恨みが「悲しみ」に変容することの重要性の指摘が本質を突いている。第5章では、竹花豊氏が広島県警本部長時代に暴走族に送ったメッセージ、 これはまさに「何ができるか」を具現したものであり、「広島での教訓というのは、個別のカウンセリングに加えて、社会的なカウンセリングに視点を持つということです」といった実践からの報告は共感を呼ぶ。第6章では、松田文雄氏が広島で実践している「少年司法と思春期精神医療の対話」懇談会の紹介がなされている。ネットワーク作りの際に共通言語の必要性を痛感しているくだりはまさに同感である。

おとな一人ひとりが少年事件の解決・予防に向けてどのようなことができるのかを考えるきっか け作りの一つとして、多くの方にお薦めしたい著書である。

(専修大学ネットワーク情報学部) 村松 励

● 山崎晃資編著 同入社、A5判232頁、1,800円+税、2008年7月刊