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書籍「井月現る」の書評が東京新聞(9月28日)に掲載のお知らせ
書籍「井月現る」が東京新聞(9月28日)の書評に掲載
行脚の実態を鮮明に
[評者]復本一郎=国文学者
幕末から明治にかけて信州伊那谷を中心に行脚の生涯を過ごした北越長岡の俳人・井上井月(せいげつ)に全身で体当たりした快著。その方法は、インターネットを検索するかと思えば、現地踏査を実施したり、かと思えば図書館に出掛けて原本に当たったりと、元ジャーナリストの面目躍如。
本書の特色は、井月の四部の編著『まし水』(文久二年)、『越後獅子』(文久三年)、『家づと集』(元治元年)、『余波(なごり)の水くき』(明治十八年)に注目し、そこに井月の滞留地である伊那出身の俳人で、文久元(一八六一)年に京で宗匠となった北野五律(ごりつ)をキーパーソンとして配し、井月の行脚の実態を解明したところにある。その手際、実に鮮やか。
京住の五律のことは当時、十分に周知されていなかったか、文久二年刊の『俳諧画像集』では「信州人」とのみ記されている。対して著者は、『越後獅子』『家づと集』では、それぞれ五律が「洛」(京)の俳人として遇されていることに着目。そこから井月の関西、東海、関東、東北への二千キロ、二カ月余の行脚が行われたのは、文久二年であろうとの説得力のある仮説を提出している。
瑕瑾(かきん)一つ。『越後獅子』中の江戸の春湖の句は<木曽川の水ゆり屈(まげ)る霞(かすみ)かな>が正しく、春霞によって、木曽川の水が揺(ゆら)いでいる様子を詠んだもの。文献の正確な読みが卓説を生もう。
2014年9月28日東京新聞から