「スクリーニング〜健診、その発端から展望まで〜」について
■ 「スクリーニング〜健診、その発端から展望まで〜」のご紹介
スクリーニング〜健診、その発端から展望まで〜
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著者:アンジェラ・ラッフル、ミュア・グレイ
監訳:福井次矢、近藤達也、高原亮治
07月16日発売
定価:本体価格2800円+消費税
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スクリーニング〜健診、その発端から展望まで〜のご紹介
監訳の福井先生は日本語版の発行にあたってで、
「本書は、健診の歴史から概念の変遷、臨床疫学・情報学的視点、実践上の問題点、医療政策との関連など、健診に関わるほとんどすべてのテーマを網羅しつつも大変わかりやすく解説した、優れたモノグラフである。
健診業務に携わるすべての職種の方々、プライマリ・ケアから高度急性期医療までのあらゆる分野の臨床医、医学生、公衆衛生関係者、医療政策に関わる方々に、一度は本書に目を通していただきたく、強く薦める次第である。」
近藤先生は、
「人間ドックを受診する人々は、病巣を小さいうちに発見して早いうちに治療したいという事、自分の体質について十分に知り理解しておきたいと考えている事であろう。一方、その背景には、医学的な確実性に関わる問題、宗教も含めた文化的な問題、商業的な問題、政治的な問題など多くの倫理的な問題も多い。 この書から歴史を踏まえて多角的に「スクリーニング」というものを勉強する事が多大であった。」
高原先生は、
「疫学や公衆衛生について、どちらかと言うと単調な自然科学で、○×で理解できるかのような傾向も見られるが、公衆衛生は社会学と、疫学は統計学と、そして統計学はこういった科学哲学と深い関連を持っている。この科学哲学と純自然科学的な側面とが必ずしも統合されて理解されているとは言えないことは、疫学のみに限らず、我が国の社会医学にとって残念なことである。 本書の翻訳をきっかけに、我が国においても科学哲学に対する関心が深まり、医学・公衆衛生学の中で深く議論されることを願っている。」
(日本語版の発行にあたってからの抜粋)
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「スクリーニング」の書評から
*東京法規出版「月刊地域保健2009年9月号」の書評に取り上げていただきました。
以下に転載いたします。
東京法規出版「月刊地域保健2009年9月号」の書評より
スクリーニングの意味を、多くの読者はご存じだろうが、ためしに辞書を引くと「何らかの病気の異常があるか検査すること」だそうで、副題の「健診」がもっとも適切な日本語に当たる。本書は英国で2007年に出版された Screening : Evidence and Practice の翻訳書である。ここでもスクリーニング=健診の意味で、内容の一部をご紹介する。
原著者の、英国の公衆衛生学者でEBMの世界的な推進者の1人であるJ. A. Muir Gray氏と、Angela E. Raffle氏による序文中、「本書は”ハウツー”本」とあるが、実質は自習書、それも健診を取り巻くあらゆる知識を徹底的に学ぶための、問題集(自己テスト)付き専門書である。
内容は、健診の歴史(第1章どのようにしてスクリーニングが始まったか)から意味するもの(第2章スクリーニングとはいったい何か)と続き、最終章の「第8章スクリーニングの政策決定」に至るまで、健診の内容から評価、実施方法、質の管理、公衆衛生従事者の関与の仕方などが網羅されている。
第1章で、健診(この当初は、健康な人々を定期的に健康診査すること)が、ロンドン王立病院の医師 Horace Dobell によって1861年に提起され、その後、1900年に米国の医師 George M. Gould が医師会の第51回年次集会で「個人に対する診察の体系:医学的、科学的に適切な生活を送るための条件」との論文を発表し、これによって多くの米国人が「毎年の定期健康診査」を受診するきっかけになったことが書かれている。また、後に同国では生命保険会社が財政的なリスクを最小化するために保険契約者に健診を勧め、定期健診の受診推進要因の一つになったとある。わが国の特定健診・特定保健指導では医療保険者に実施が義務づけられており、公的と民間の違いはあるが、歴史的にも健診と保険の結び付きは強いことが見て取れる。
英国では19世紀を通じ、子どもの健康状態はひどく、1904年に子どもに対する健診が始まるが、これは戦争が相次いだ当時の、強兵策としての面もあったそうだ。
1950年代、米国では健診が診療の中で確固たる位置を占めるようになる一方、英国では認知が始まったばかりと開きがあったが、60年代、ベトナム戦争、5月革命に代表される世界的な変革の時期に入ると、健診の現状にも学者たちから疑間が投げかけられ、有益な議論が展開された。英国のNuffield Provincial Hospital Trust 報告、WHO へのWilson-Jungner による報告が発表され、1964年、米国でのKaiser Permanenteよるランダム化比較試験、67年、英国のSouth-East London Study Group によるそれなどが行われ、健診の利益と害について評価する必要性、質の管理されたプログラム提供や、バランスのとれた情報提供に関する倫理的義務の重要性が、次第に認識されるようになったという。
これらの点につき「第6章質の保証されたスクリーニングプログラム」で、「品質は、トレーニング、サービスを提供するスタッフのやる気を起こさせることと報酬、そして現実的で達成可能な質の基準の評価にスタッフを関わらせることによって達成される」とあり、「第7章公衆衛生従事者とプログラム管理者のための日々のスクリーニング管理」で、市民に悪影響を及ぼす「不適切なスクリーニングを統制するために重要なステップは、それを要求する理由を認識し理解すること、またなぜそれが公衆衛生のためにならないのかというはっきりした理由を伝えること、そして政策に沿うことを保証する特定の統制計画を導入すること」だとしている。
最終章で、倫理的なジレンマを伴うスクリーニング政策の決定において「公正さという視点に立てば、何人も、特に貧乏な人々も参加することから締め出されてはならない」とある。所得格差による影響大の、現代の健康格差問題についても、本書は解決の基盤となる示唆を提供している。
月刊地域保健 編集部
● 著者:アンジェラ・ラッフェル、ミュアー・グレイ、
同入社、B5判256頁、定価2,940円